防錆処理
錆の原因 金属と腐食の関係
金属のほとんどは自然界の酸化物・硫化物等の鉱石から 還元操作によりつくられた物質です。腐食とはその金属が大気中で自然に還るイオン化現象です。 鉄は空気や水に触れるとイオン化(電荷的に中性な分子を正または負の電荷を持ったイオンにすること。電離(でんり)とも呼ばれる。)します。 この時イオンが大気または水溶液に溶け出し、残された電子が腐食電流として流れることでサビが進行します。 従って陽イオンになりやすい金属(イオン化傾向の大きい金属)はさびやすいといえます。
鉄の錆は鉄が全面腐食した結果生じた腐食生成物です。代表的な鉄の錆色は、黄色、茶色、茶褐色、黒色などがあり、厚さや結晶の大きさにより色が変わります。
ステンレス鋼やアルミニウムなどの錆は斑点が生じます。 この斑点は、金属の不動態皮膜が塩化物によって破壊され生じる、腐食生成物です。これは全面腐食ではなく、孔食や応力腐食割れです。
化成被膜で金属の表面処理をする
金属の表面に人工的に錆皮膜を生じさせ、それによって錆を防ごうというのが表面処理剤です。
総称ではウォッシュプライマーもしくはエッチングプライマーと呼ぶもので、ほとんどの製品がリン酸を主体としたものです。 リン酸に他の酸や有機溶剤、界面活性剤などを混合したものが製品化されています。酸は酸化皮膜を作るのと同時に、すでに発生している錆を落とす効果もあわせもっています。
錆の除去能力だけから言うと、実際には、リン酸よりも塩酸や硫酸のほうが強いのですが、リン酸は鉄と反応し、薄いリン酸第二鉄の皮膜を形成します。 この皮膜は水に溶けないので、処理後水洗いが可能であり、洗浄後、空気や湿気にさらされても錆が発生しにくくなります。
鉄は酸と反応し酸化鉄を作る際に水素を発生します。そして、発生した水素の一部が鉄に吸収されると水素脆性という現象を引き起こします。 鉄の組織内に原子状水素を取り込んでしまうことにより、鉄がもろくなってしまうのです。
しかも、この現象は強度がある高張力鋼板や炭素鋼板ほど起こりやすいのです。 塩酸や硫酸などの強い酸を使用する場合には、この点に注意が必要です。また、メッキを行う際にも酸洗いを行いますから、 この場合にも水素脆性は起こります。メッキしたスプリングやシャフトが折れやすいのはこのためです。
また、発生した水素はリン酸塩皮膜の表面にも小さな穴をあけます。 さらに、リン酸塩の結晶は鉄鋼の表面で結晶核となって、それが成長し皮膜となり、皮膜表面には微細な凹凸ができるため、密着力が上がります。 これがリン酸被膜の下処理の原理です。
注意としては、この状態で長く放置すると、水素ガスが抜けた穴から酸素や水が供給され錆が発生するため、 短時間(1時間程度)の後に、中塗りをオーバーコートする必要があります。塗装方法は厚付けせずに薄く塗ることがポイントとなります。 また、アルコール系溶剤を含むため、水分をよびやすい(かぶったように白くなる)ので、梅雨時や湿度の高いときは注意が必要です。 旧塗膜の上にはウォッシュプライマーは効果はありません。ほかに、リン酸被膜の上にダイレクトにはポリエステルパテは使えません。必ずウレタン系プラサフなどの塗装をお勧めします。
塗料中の防錆顔料について
防錆塗料がサビを防ぐ仕組みは、大きく分けて2つあります。ひとつは、塗料の中の顔料として、防錆効果の期待できる物質を含有するもの。 そしてもうひとつは、錆発生の必須要素である水や酸素を強い塗膜によって遮断することを目的としたものです。 塗料の主成分は「顔料」、「樹脂」、「溶剤」で構成されています。
樹脂は塗料の中で接着剤のような役目を果たすもので、別名バインダー(ビヒクル)とも呼びます。 着色を主目的とした上塗り塗料では、顔料(粉末状)で色をつけます。 一方、防錆下地塗料では顔料に防錆効果を持ったものを使用することで、塗料に防錆効果を持たせています。
そして、この防錆顔料もいくつかに分類することができます。
アルカリ性の塗膜を作ることで腐食反応を止める働きを持つのが、俗に鉛系塗料と呼ばれる防錆塗料です。 顔料としては主に、鉛丹(ph8.3)を使用しています。 鉛系防錆塗料は鉄鋼などに塗布される赤錆色の防錆塗料として普及しましたが、環境問題で脱鉛が叫ばれるなか、近年は減少しています。 ほかに、同じ赤錆色のペイントでもベンガラを顔料としたものもあります。 こちらは酸性塗膜です。ベンガラは対紫外線性に優れ、これによって樹脂を保護することで塗膜の性能を上げています。 といっても上塗りを前提としている下塗りではこれもあまり意味がありませんが・・・。
鉄に代わって亜鉛が酸化する
防錆顔料を使用した塗料にジンクリッチペイントと呼ばれる塗料があります。これは、塗料の顔料として亜鉛粉末を使用しています。 鉄よりもイオン化傾向の速い亜鉛を顔料として使用することで、亜鉛が先に陽極化し、鉄が腐食するのを電気的に食い止めようという仕組みです。 亜鉛が鉄の身代わりになることから、犠牲陽極などとも呼ばれています。 ジンクリッチペイントは、海洋などの厳しい環境下でも防食性に優れていることから、船舶や橋梁などの重防食塗料の下塗り塗料として普及しました。
しかし、この塗料は亜鉛粉末を使って電気的に防錆するものなので、金属面と亜鉛粉末とが密着し、電気的に導通していることが、防錆力を発揮してくれるポイントとなります。 つまり、ジンクリッチペイントは中塗りとして使用しても意味がありません。 ブラスト、またはペーパーなどを使って下地調整、サビ落しをしたあと、直接鉄の表面に付着させる形で施工しなければいけません。
アルミニウムは亜鉛よりもイオン化傾向が大きいので、アルミニウムの防錆塗料としてジンクリッチを使用することはできません。
錆転換剤
さび転換剤は錆を安定した酸化鉄に変換すると同時に、含まれている樹脂でコーティングし耐久性を持たせます。 レノバコンクの場合には、エポキシ樹脂が使われています。 一般に、錆転換剤のほうがリン酸系の錆除去剤に比べて、そのまま放置した場合でも錆は発生しにくいようです。 しかし、これらの場合も上塗りをしたほうが防錆効果は大きく、上塗りをすることを指定している製品もあります。
錆と劣化した旧塗膜を固めて酸素を遮断
錆の上から塗れるという塗料の場合、顔料に防錆顔料を使うのではなく、塗料の塗膜剛性によって水や酸素を遮断し、サビの進行を抑え、 さらに錆と強固に結合する密着力で、錆の進行を抑えるという塗料です。 また、水と酸素では遮断しやすさに違いがあります。
普通は、酸素よりも水のほうが遮断しやすいように思えますが、実際には、水は塗膜を透過してしまい、塗膜の中に入り込んだ水は下にある錆を包み込みます。 また、水が塗膜を透して入り込まなくても、錆はすでにかなりの割合で水を含んでおり、塗膜の気孔をなくして酸素を遮断しない限りは、錆の再生を完全に食い止めることはできません。 塗膜で酸素を遮断するには、塗膜の強度や無気孔性もさることながら、最も確実で簡単な方法は膜厚を厚く塗ることです。
暴露テストの結果、上塗りまで含めた合計膜厚で250ミクロンを超えると、錆の発生は極端に少なくなります。 これは、一般に防錆塗料は厚塗りをベースに考えられていることとも一致します。 これらは400ミクロン程度に厚塗りしても大丈夫なように設計されています。 これらの製品は鉄面の新設はもとより、錆面、亜鉛メッキ面、非鉄金属面、旧塗膜に密着し、重防食塗膜を造ります。 また、上塗りの塗料の種類を選ばず、幅広い選択が可能です。鉛顔料を含みません。ぜひ、環境面で問題のある鉛は含まない製品をお選びください。
浸透性防錆塗料
浸透性防錆塗料は、錆層に対して強い浸透力を持ち、それによって錆との付着力を増すという塗料です。 塗料の密着力は、樹脂の性質によるところが大きい。一般的には、油性→アルキド→塩化ゴム→ウレタン→エポキシの順で塗料の密着力は強くなります。 この仕組みには、ケチミンと呼ばれる特殊な硬化剤によるところが大きい。前述のとおり、錆皮膜の内部には多くの水をたたえています。 ケチミンはこの水と反応し、アミンとケトンという2種類の物質を生成する。実際にエスコを硬化させるのはアミンです。 錆内の水をケチミンで置換し、水がなくなってできた隙間に樹脂が入り込み硬化するという仕組みです。
この作用はクサビ作用と呼び、アミンとともに生成されたケトンは塗料の溶剤として働きます。 錆層内の水との反応によりできたケトンはサビ層近くの樹脂の粘性を小さくし、わずかな隙間にも入りやすくする役目を担っています。 ところが、ケチミンによるクサビ作用はサビのないスムーズな金属表面ではおきにくいのです。
そこで、これらの塗料をサビていない金属表面に塗布する場合は、リン酸系下地処理剤でエッチングしたのちに塗装すると、良い結果が得られます。 具体的にいうとPOR、エスコという防錆塗料です。PORは水置換硬化型の塗料で、エスコとの違いは、エスコはエポキシ系塗料であるのに対し、PORは特殊ウレタン系です。 ウレタンをベースとして使った方が塗膜強度の点では優れています。 特に中長期の屋外暴露になるケースには、エポキシ樹脂の特性で、紫外線により分解されてチョーキング現象が起きます。 チョーキングとは塗膜表面に白い粉がふく現象をさし、美観が要求される場合は、エスコを下塗りした場合は長期間放置せず、必ず上塗り塗装をすることです。 エスコやPORのような水置換型の塗料は、2回塗りして塗膜をかせぐよりも、できれば1回で厚塗りしたほうが、錆内の水を多く置換して、優れた性能を発揮します。 2回塗りだと最初の塗膜に遮断され、錆内の水をケチミンによって置換するという効果は薄くなります。
ただし、膜厚をかせいで酸素を遮断するという意味では、上塗り塗料(ウレタン系塗料)を塗り重ねてやると防錆力は上がります。 また、わずかな隙間にも入り込む浸透性は、樹脂分が多く顔料の少ない塗料の特性で、当然ですが顔料分が多く、粘度の高いパテや防錆塗料などはこうした浸透密着性で劣ります。 自動車塗装の分野では、素地にまずパテを入れて、その後、プライマーを塗る仕様が一般的によく行われている方法ですが、防錆の効果を考えると まず、密着性と塗膜遮断性に優れたプライマーを塗ったあとにパテを重ねたほうがよいでしょう。